「都合のいい男」という言葉を、僕は自分に使わなかった。役に立っている、必要とされている。聞こえのいい名前を貼り替えて1年半を過ごした。
27歳から28歳、10歳上の会社経営者と同棲していた。家賃も生活費も相手持ち。「助かる」と何度も言われたが、助かることと選ばれることは別だった。
書くのは、都合のいい男と求められる男の分岐点だ。分けるのは優しさの量ではなく、条件を出せるかどうか。女性側の景色はダメ男にハマる女性の心理にまとめた。
なさ男便利でいるのをやめることと、冷たくなることは、全然違う話だ。
都合のいい男と求められる男を分けているのは、優しさの量ではない
この二種類の男を並べて観察できる場所に、僕は6年いた。レンタル彼氏の事務所と、ギャラ飲みの席だ。どちらも、ほとんど同じ振る舞いをする男が、片方は次に呼ばれ、片方は使い切られて終わる場所だった。差は性格でも顔でもない。もっと小さくて、もっと具体的なところにある。
二人がやっていることは、ほとんど同じだ
まず前提を壊しておきたい。都合よく扱われる男が「優しすぎる」から扱われているという説明を、僕は信用していない。
呼ばれれば行く。話を最後まで聞く。荷物を持つ。愚痴に付き合う。落ち込んでいる日に長い電話をする。これらは全部、求められている側の男もやっている。行動の一覧を並べただけでは、二人はほとんど見分けがつかない。違いが出るのは、行動そのものではなく、その行動を渡すときの条件のほうだ。
| 場面 | 都合のいい男 | 求められる男 |
|---|---|---|
| 急な誘い | 予定を空けて行く | 行ける日を自分から出す |
| 深夜の連絡 | 起きて返す | 朝に返す。理由は説明しない |
| 会う場所 | 毎回こちらが移動する | 半分はこちらに来てもらう |
| 断るとき | 断らない | 断る。ただし代案を出す |
| 相手が困ったとき | 全部引き受ける | 引き受ける範囲を先に言う |
右の列を見て、冷たいと感じただろうか。僕は最初そう感じた。だが実際に会うと、右の列の男のほうが感じがいい。断る人間は、引き受けたことを最後までやるからだ。
分けているのは三つだけ。断れるか、条件を先に言えるか、予定を合わせ続けないか
6年見てきて、差はこの三つに集約された。
一つめは、断れるかどうか。二つめは、頼まれる前に自分の側の条件を言えるかどうか。三つめは、相手の予定に自分の予定を合わせ続けないかどうか。並べてみると分かるが、三つとも「相手に何かを減らす」動作ではない。全部「自分の側を明示する」動作だ。
都合のいい男には、輪郭がない。いつ空いているのか、何が無理なのか、どこまでならやるのかが、相手の側から一切見えない。輪郭のないものは、相手の都合の形に合わせて伸び縮みする。悪意がなくてもそうなる。水は器の形になるが、それは水が弱いからではなく、水に形がないからだ。
便利さは、続けるほど安くなる
そしてもう一つ、たちが悪い性質がある。便利であることは、続ければ続けるほど価値が下がる。
これは希少性の話ではなく、コストの話だ。あなたを呼ぶのに交渉も、日程の調整も、断られたときの気まずさも、一切いらないとする。すると相手にとって、あなたを呼ぶという行為のコストはほぼゼロになる。コストがゼロのものは、いつでもできることとして頭の後ろに置かれる。予定表に書き込まれず、思い出したときにだけ取り出される。
ここを間違えないでほしい。安くなっているのはあなたという人間の価値ではなく、あなたを呼ぶという行為の値段だ。この二つを混ぜると、扱いが軽いのは自分に価値がないからだという結論に一直線で着地する。恋愛の場面で何がどう値付けされているのかは、恋愛市場価値とは何かのほうで構造ごと分解した。あちらと合わせて読むと、自分を採点し直す必要がないことが分かるはずだ。



安くなっていたのは僕の人格じゃなかった。僕を呼ぶ手間の値段だった。
呼ばれるのに指名されない男を、僕は現場で大量に見てきた
分岐点の話には根拠がいる。僕がそれを見たのは、25歳から2年ほど所属していたレンタル彼氏の事務所だった。自分の数字より、同じ事務所にいた同僚たちの数字のほうが、この話にはよく効く。彼らは僕より確実に、優しかった。
事務所にいた「いい人」たちは、二回目に呼ばれなかった
先に前提を書いておく。レンタル彼氏は性的なサービスを含まない仕事だ。僕がやっていたのは買い物の同行、食事、映画、それから話し相手で、2年間の指名は約80人、累計でおよそ500時間になる。時給2,000〜3,000円に指名料が乗って、総収入は約120万円だった。
その現場に、驚くほど感じのいい男が何人もいた。延長を頼まれれば必ず受ける。終電を逃してでも付き合う。予定の時間を過ぎた分を請求しない。初回のアンケートには、いい人だった、優しかった、と書かれる。それなのに二回目が入らない。半年もすると、名前を聞かなくなる。ここで消える男と、一緒にいて疲れないと言われて指名が続く男は、別の軸で評価されている。
逆に、指名が途切れない同僚がいた。彼は延長を平気で断った。「今日はここまでです」と言って、次に空いている日をその場で二つ出す。当時の僕は、それを愛想のない男だと思って見ていた。だが予約表を見れば答えは出ていて、断ったほうに次が入っている。何度見ても同じだったので、途中から真似した。
断らない男は、思い出される理由がない
なぜ断ったほうに次が入るのか。しばらく分からなかったが、たぶんこういうことだ。
人は断られると、一度考える。なぜ無理だったのか、次はいつなら空いているのか、そのとき自分はどうしたいのか。考えた時間の分だけ、その相手は頭の中に残る。ところが断らない男に対して、人は何も考えない。考える必要がないからだ。思い出してもらう場所は、相手が一度立ち止まったところにしかできない。
同じことは、男性キャストとして約200回出たギャラ飲みの席でも見た。全部の話に相槌を打ち、空きグラスに気づき、要求に応じる男は、その夜は確かに便利だ。ただ、また呼びたいと言われるのは、たいてい別の男だった。便利な男は、その場でありがたがられて、その場で使い切られる。
必要とされることと、選ばれることは違う
ここまでは他人の話だ。自分の話をする。
10歳上の経営者の女性と暮らしていた1年半、僕は間違いなく必要とされていた。彼女の帰りは遅く、平日に洗濯機を回す人間が家にいるだけで生活が回った。作り置きがあれば深夜でも食べるものがあるし、帰ってきた家に不機嫌な人間がいないというのは、あの働き方をしていた人にとって相当な価値だったと思う。だから「あなたがいると助かる」は本心だった。
問題は、僕がそれを自分への評価だと受け取っていたことだ。助かる、というのは機能に対する評価であって、人に対する評価ではない。そして機能は、分解すれば全部外注できる。家事の代行と、食洗機と、機嫌のいい話し相手。僕がやっていたことは、たぶんその三つに分けられた。1年半で関係は終わったが、僕がいなくなったあとの生活は、それで普通に回ったはずだ。
選ばれる側に何が要るのかを分解した話は、貢がれる男の特徴7つのほうに書いた。機嫌の安定も家事能力も、あそこにちゃんと入っている。僕はその条件を満たしていた。それでも足りなかったのは、リストの内側でいくら点を取っても、条件を出す側に一度も回らなかったからだ。必要とされる技術と、選ばれる技術は、別の科目だった。



助かる、と言われて安心していた。あれは僕への評価ではなかった。
なぜ相手は、あなたを都合よく扱えてしまうのか
ここを飛ばすと、この手の話はすぐ「女は男を利用する」に着地して終わる。それでは何も解決しないので、相手側の話を書く。6年間、扱われる側の椅子から見ていた範囲の話だ。先に言っておくと、相手が悪意で動いているケースは、思っているより少ない。
悪意ではなく、抵抗がないから位置が固定される
人は、通れる道を通る。断られない相手には、断られない前提で頼む。これは冷酷さではなく、単なる経路の問題だ。
一度も抵抗が返ってこないと、その頼み方は「そういうことをしてもいい関係」として定着する。相手の側に、何かを奪っている感覚は生まれない。むしろ「この人はこれが平気な人だ」という理解のもとで動いている。だから責めても話が噛み合わないし、我慢していたと伝えると本気で驚かれることもある。位置を固定したのは相手の悪意ではなく、抵抗がゼロだったという事実のほうだ。
一度断られると、相手の中の分類が変わる
逆から言えば、抵抗は一度で効く。断った瞬間に、相手の中でのあなたの分類が書き換わるからだ。
いつでも呼べる人から、予定のある人へ。この移動が起きると、誘い方そのものが変わる。日付が先に出てくるようになり、「空いてる?」が「この日どう?」になる。レンタル彼氏で延長を断りはじめた時期、僕はこれを何度も観測した。断ることで嫌われた回もあるが、それ以上に、扱いが丁寧になった回のほうが多かった。断るのは関係を減らす行為ではなく、関係の解像度を上げる行為だ。
受け取り続けることは、相手の選択肢も減らしている
一方通行が関係を固めるのは、渡す側でも同じだ。ここは、僕が逆の立場に立ったときに分かった。
20代の僕は、食事も物も出してもらう側にいた。受け取る側にいると気づきにくいが、出し続ける側にも居心地の悪さがある。毎回同じ人が出す関係は、途中から降りにくい。やめると急に冷たくなったように見えるからだ。つまり、こちらが受け取り一辺倒でいることは、相手からも選択肢を奪っている。奢る側の心理と、受け取る側の作法は奢ってくれる女性の心理にまとめたので、支払いの話はそちらに任せる。構造だけ言えば、都合のいい男の問題とまったく同じ形をしている。
条件を出す男を嫌う人ばかりではない
「断ったら嫌われる」という前提を、たいていの人は検証していない。僕もしていなかった。
実際に条件を出しはじめて返ってきた反応は、想像とかなり違った。予定のある相手のほうが誘いやすい、と言われたことが何度もある。いつでも空いている相手を誘うのは気楽そうに見えて、実は責任が重い。こちらの時間を丸ごと使わせている感覚が、無言のまま相手側に溜まる。
もちろん、条件を出した瞬間に離れていく人もいる。ただ、それは相性の問題ではない。その人が求めていたのは、あなたではなく便利さだったと判明しただけだ。判明するのは損失ではなく、収穫のほうに数えていい。



断ったら嫌われる。あれ、一度でも確かめたことがあるだろうか。
都合のいい男をやめる手順。引くのではなく、条件を出す
やり方の話をする。ここは淡々と書く。最初に一つ外しておきたいのは、連絡を減らす、既読を放置する、そっけなくする、という方向だ。これらは全部「引く」であって「条件を出す」ではない。引くという行為は、相手にこちらの内心を解読させる作業を押しつけるもので、まず伝わらない。伝わらないまま、態度が悪くなっただけの人として処理される。
無条件で渡しているものを書き出す
時間、移動、金、深夜の対応、相談に付き合った回数。この1ヶ月で渡したものを、紙かメモアプリに実際に書き出す。頭の中で数えると必ず少なく見積もるので、書くほうがいい。
一つだけ、条件をつけて渡す
全部を一度に変えない。次の誘いで一つだけ、断りと代案をセットにして返す。「今週は無理。来週の火曜なら行ける」で足りる。理由は言わなくていい。言い訳を足すほど、断りは弱く聞こえる。これが条件を出すということの、いちばん小さな単位だ。
断ったあとの態度を変えない
ここが一番難しい。断った後ろめたさから長い説明を送ったり、次の頼みを過剰に引き受けたりすると、条件はその場で無効になる。相手が学習するのは「断るように見えて結局やる人」だ。断った日と同じ機嫌のまま、翌日も普通に接する。
空けて待つのをやめる
連絡が来るかもしれない日を空けておく習慣を切る。恋愛と関係のない予定でいい。ジムでも友人でも仕事でも構わないので、先に自分の予定で埋める。断る材料が実在すると、断り方から嘘の気配が消える。ここは演技ではどうにもならない部分だ。
3回出して、扱いが変わるかを見る
1回では相手も反応を決められない。条件を3回出して、誘い方や日程の出し方が変わるかどうかを見る。変わるなら関係は続く。3回出しても何も変わらないなら、そこは変わらない場所だと判断していい。期限を決めておくと、無限に様子を見る癖から抜けられる。
五つとも、相手を試したり動かしたりする手ではない。自分の側の運用を変えるだけだ。余裕のある男という言い方があるが、あれも中身は同じだと思っている。余裕は性格ではなく、予定の埋まり方から出る。空いている時間が多い人間ほど、返事の速さで気持ちを表現してしまう。



引くのは駆け引き。条件を出すのは、ただの自己申告だ。
都合のいい男をやめたときに、実際に何が起きるか
その位置から降りれば、関係は必ず変わる。ただし、良いほうに変わるとは限らない。ここを綺麗事で埋めると、実際に動いた人が一番損をするので、正直に書く。
関係が終わることがある
便利さだけで成立していた関係は、条件を出した瞬間に静かに終わる。連絡が途切れる。既読がつかなくなる。理由の説明はない。
それを損失として数えるかどうかだが、僕は数えなくていいと思っている。終わったのは関係ではなく、関係の形をした習慣だ。条件を一つ出しただけで消えるものを、これまで恋愛の可能性として計算に入れ、予定を空けてきたことになる。失ったのではなく、最初から無かったことが分かっただけだ。痛いのは事実だが、痛みの正体は喪失ではなく、費やした時間のほうにある。
終わらなかった場合、変化は静かに来る
期待しているような劇的な逆転は、まず起きない。急に好かれるとか、態度が反転するといったことはない。
実際に変わるのは細部だ。誘いに日付が入るようになる。移動距離が半分になる。頼みごとの前に「今大丈夫?」が挟まる。返事を急かされなくなる。どれも地味で、その日のうちには気づかない。1ヶ月分をまとめて振り返って、そういえば呼び出され方が変わったな、と後から分かる程度の変化だ。ただし、この地味さこそが扱いの変化の本体だと思っていい。
条件を出しても変わらないなら、引き際を見る
順番が大事だ。正しいのは「条件を出す → 変わらない → 引く」であって、いきなり引くのではない。
都合のいい男が最も苦手なのが、この最後の一手だ。ここまで我慢したのだから、あと少しで変わるかもしれない、と考えてしまう。だが3回条件を出して扱いが動かない相手は、4回目でも動かない。相手が態度で伝えている合図の読み方と、静かな引き方については年上女性の脈なしサインと引き際に手順で書いた。引くことと、都合よく扱われる位置に居続けることは、まったく別の話だ。



一つ断っただけで消える相手なら、それは関係じゃなく習慣だった。
やめようとして間違える、三つのやり方
ここからは失敗例だ。三つとも僕がやったことがあるし、やった結果どうなったかも覚えている。どれも「条件を出す」の代わりに選ばれやすい、遠回りの手だ。
冷たくする
返信を遅らせる。そっけなく返す。相手が不安になるのを待つ。これは駆け引きだが、よく見ると都合のいい男の最後の変奏でしかない。相手の反応を材料にして自分の位置を確かめている点で、やっていることは前と同じだからだ。しかも、態度で察してもらうのは相手に読解を頼む行為だ。口で言えないことを態度でだけ主張しても、まず届かない。
見返そうとする
扱われ続けると、今度は自分が採点する側に回りたくなる。あの人は年齢が、性格が、見た目が、と減点を数えはじめる。反動としては自然だと思う。こちらは長く採点される側に座らされてきたわけだから。
ただ、点をつけ返していることは隠しても相手に届く。届いた時点で、その人はこちらの前でくつろげなくなる。見返すという目的が残っている限り、行動の基準はまだ相手の側にある。都合のいい男から抜けるというのは、判定の場所を自分に戻すことであって、判定の向きを反対にすることではない。
いきなり全部を断つ
我慢が限界に来た人が選びやすいのが、これだ。連絡を全部止める、ブロックする、二度と会わない。
やる自由はあるし、心身を削られている相手からは離れていい。ただ、伝わるのは条件ではなく不機嫌のほうだ。そして次の関係でも同じ位置に座り、また限界まで我慢することになりやすい。位置を決めているのは相手ではなく、こちらの渡し方だ。相手を替えても渡し方が同じなら、結果も同じになる。
さきほどの表の左の列に自分がどれだけ入っているかは、並べてみるとはっきりする。10項目にしておいた。
都合のいい位置に固定されていないかチェック(10項目)
当てはまる数が多いほど、渡し方に自分の輪郭が入っていない。性格の採点ではなく、運用の点検だ。
当てはまる項目にチェックを入れると、その場で判定が出る。
入力した内容はブラウザの中だけで処理され、どこにも送信されない。
都合のいい男をやめたい人からよくある質問
優しさは減らさなくていい。減らすのは、無条件で渡す量だ
最初の問いに戻る。役に立っているのに、なぜ選ばれないのか。僕の答えは、優しさが足りないからでも多すぎるからでもなく、条件を一度も出さなかったから、その位置に固定されただ。相手が悪かったわけでもない。抵抗のない場所には、抵抗のない前提で頼みが集まる。それだけの話だった。
だからやることは、優しさを引っ込めることではない。断る、条件を先に言う、予定を合わせ続けない。この三つを足すだけで、渡している中身は何も変わらない。変わるのは、渡し方に自分の輪郭が入るかどうかだけだ。
本音を書く。僕は「あなたがいると助かる」を評価だと思い込んで1年半を過ごし、そのあと、求められる側にいることに慣れすぎた人間になった。呼ばれる立ち回りは覚えたのに、対等な相手と向き合うのは今でも下手なままだ。都合よく扱われる位置が厄介なのは、そこにいる間ずっと必要とされていて、必要とされている間は自分が何を失っているのか分からないところにある。
明日やることを一つだけ挙げるなら、次に来た誘いに、行ける日を自分から一つ出すことだ。断りと代案をセットにする。それだけで、あなたを呼ぶという行為に、初めて少しだけ手間がかかるようになる。手間のかかるものを、人はちゃんと予定に書き込む。



優しさは持ったままでいい。渡し方に、自分の都合を一つ入れるだけだ。

